絶対に経験したくない。きっと想像できないぐらい過酷だ。もし自分の身に起きたら……。一般財団法人イノセンス・プロジェクト・ジャパン(IPJ、京都市北区)は、えん罪被害を救済するために専門家によって組織された初めての全国規模の民間団体。甲南大学法学部教授(刑事訴訟法)で同法人事務局長の笹倉香奈さん(45)は「えん罪をなくすためには、なぜ起きたのかをきちんと原因究明することが必要」と訴える。【まとめ・中川博史】 ◇支援した9件のうち2件で無罪確定 イノセンス・プロジェクトはDNA鑑定や自白・供述などを検証し、えん罪を晴らすために1990年代に米国で始まった民間の活動です。10年ほど前に米国に留学していた際、私も参加しました。帰国後に日本でも同様の組織を立ち上げる動きがあるのを知り、IPJの前身「えん罪救済センター」の設立に加わりました。 メンバーは法学者や弁護士、科学者など専門家約50人です。えん罪に巻き込まれた本人や家族、弁護人などからの申し込みを受け、客観的な証拠によってえん罪であることを明らかにできるかどうかを審査します。対象となるのは、犯人ではないのに犯人とされた、あるいは犯罪ではないのに犯罪とされたという刑事事件で、かつ起訴されている場合です。もちろん、すでに判決が出ていても構いません。支援に至ったケースはこれまでに9件あって、うち2件で無罪が確定しました。4件について現在も支援を継続中です。 えん罪が起きる原因は一つではありません。威圧的な取り調べによるうその自白や科学的な鑑定の過信など、さまざまな要因が重なり合って起きるのです。日本では特に、自白偏重の取り調べが問題視されています。取り調べは、自由を奪われ、被疑者(容疑者)として扱われる「異常な状態」と言えます。 普段生活していて、人に何かを聞かれた時、記憶がはっきりしなかったり、答えるのが面倒だったりして、軽い気持ちであいまいな返事をするのはよくあることです。取り立てて問題にはなりません。 ですが、取調室の中では事情が違います。どう喝されているわけではなくても、例えば「裁判になったらきっと分かってもらえるだろう」と考え、つい自分の意に反することをしゃべってしまう。1年前どこにいたかを聞かれ、覚えているはずがないのに「◯◯だったように思う」とうっかり答え、後で違っていたことが分かって「うそをついたな!」と追及されるはめになる。あるいは、不安な気持ちや警察を信頼したい思いから供述が迎合的になる……。被疑者という立場に置かれると、心理的なやりとりの中で、事実でないことが事実になっていく。「異常な状態」では、普通ならとても考えられないことが起きるのです。 その意味で、全面的な取り調べの録音・録画は必須です。今は刑事事件の一部だけにとどまっていて、十分ではありません。取り調べへの弁護人の立ち会いも重要です。さらに、起訴までの逮捕・勾留の期間が23日間あり、欧米に比べて極めて長いのも大きな問題です。制度改革が必要であることは明らかです。 えん罪は、警察や検察、だれか1人に責任があるというわけではありません。裁判官にも、弁護人にも責任はあって、さらに言えば私たち法学者やマスコミにも責任があるのです。みんなの責任ですから、えん罪をなくすためには、市民1人1人を含めてみんなが協力し合わなければなりません。 米国では州の組織として、えん罪調査委員会が設立されたり、検察庁の中に、えん罪の防止・救済を担う部門が設けられたりしています。日本では、えん罪事件を公的に検証した例がほとんどありません。捜査も裁判も人間がすることなので、間違いは起こり得ます。えん罪防止のために、公的機関を設けて、誤りが起きた原因をしっかりと検証することが何より求められます。 ◇一般財団法人イノセンス・プロジェクト・ジャパン(IPJ)◇ 2016年に前身の「えん罪救済センター」が任意団体として設立され、改称を経て23年に法人化した。これまでに約500件の支援依頼や相談、問い合わせなどが寄せられているという。メンバーの活動は無償で、大学生約120人もボランティアで参加している。活動費の寄付を募っており、申し込み方法はホームページ(https://innocenceprojectjapan.org/)の「寄付をする」から。 同法人への問い合わせや連絡はホームページ内の問い合わせフォームなどから。

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