岸田文雄首相の演説会場に爆発物が投げ込まれた事件で、爆発物の一部が時速140キロ超で聴衆の約1・8メートル頭上を通過したとみられることが専門家の分析で分かった。爆発物が直撃していれば死者が出ていた可能性もあった。事件は15日で発生から1カ月。和歌山県警は木村隆二容疑者(24)=火薬類取締法違反容疑で再逮捕=について、殺人未遂容疑などでの立件も視野に爆発物の構造や殺傷能力を調べている。 映像などから爆発物の威力を推計したのは、爆発のメカニズムに詳しい熊本大の波多英寛助教(衝撃工学)。県警によると、容疑者は自作した金属製の筒の「パイプ爆弾」2本を持ち込み、1本を岸田首相めがけて投げ込み、爆発した。これまでの捜査で金属製の筒の一部は爆発後、爆発地点から約40メートル離れた倉庫近くに落下。蓋とみられる部品は、さらにその約20メートル先のコンテナまで吹き飛んだことが判明している。 こうした状況や建物配置を基に波多氏が軌道を分析したところ、蓋とみられる部品は爆発した瞬間に約13度の角度で上昇、放物線を描きながら1秒ほどでコンテナに突き刺さったとみられ、推計初速は時速144キロ(秒速40メートル)だった。 筒の一部分は約12度の角度で上昇し、これも推計初速は時速144キロだった。それぞれ聴衆の約1・8メートル上を通過したとみられるという。 容疑者が自作したパイプ爆弾は、筒の内部に火薬が詰められ、両側が蓋で閉じられる構造だった。複数のナットが取り付けられていたとみられ、県警は殺傷能力を高めようとしていたとみている。 波多氏によると、パイプ爆弾は内部の圧力を急激に上げることで金属片などが入った容器を破裂させて爆発させる仕組み。「爆発した場合、ライフル銃などと同様に時速3千キロ超で金属片が多方向に飛んでいくほどの威力がある」という。 容疑者が自作した今回のパイプ爆弾について波多氏は「内部の圧力が十分に高まり切る前に、筒の片方の蓋が外れて飛ばされたとみられ、パイプ爆弾としては失敗だった」とする。一方で「時速140キロを超える爆発物の一部が聴衆の頭に直撃すれば、死者が出てもおかしくなかった。殺傷能力は十分にあっただろう」との見方を示す。 火薬や爆薬に詳しい防衛大学校の甲賀誠教授は「黒色火薬は身近な原料で作ることができる。高度な知識がなくても殺傷能力のある爆弾を作ることは十分に可能だろう」と話す。爆発物は投げ込まれてから爆発するまでに50秒程度かかっており、甲賀氏は「黒色火薬は火がつけばすぐに燃えてしまう。自分の狙ったタイミングで爆発するよう導火線を長くするなど何らかの仕掛けを施していたのでは」と指摘した。 容疑者の殺意を立証するには爆弾の殺傷能力や威力を裏付け、客観的証拠として示すことがポイントとなる。県警は爆発せずに現場に残っていたパイプ爆弾の複製品を作り、爆発の再現実験を行う方針だ。(藤木祥平)

関連投稿

投げれられたコメントは運営チェック後に開かれます